大学院では、名古屋大学皮膚科の膠原病グループに所属していました。
膠原病とは、自己免疫疾患で、皮膚や内臓の結合組織や血管に炎症・変性を起こし、さまざまな臓器に炎症を起こす病気の総称です。
皮膚を通して全身をみる膠原病という分野に興味を持ち、研究をすることにしました。
膠原病には、関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)、全身性強皮症などがありますが、その中でも「皮膚筋炎」という膠原病の研究をしていました。
主に皮膚と筋肉に炎症が起きる病気で、筋力の低下(階段が登りにくい、しゃがみ立ちが困難など)という症状で気づくこともあります。
しかし「筋症状のない皮膚筋炎」という病型があって、このタイプは急速に肺症状が悪化することもあるので、皮膚症状から診断をつけていくのがとても重要となります。
ここが皮膚科医の診断力を問われるところです。
皮膚筋炎とは?
ほとんどの方には聞きなれない病気かもしれませんね
国の「指定難病」の一つで、現在2万人以上の患者さんがいると推定されています。
好発年齢は、小児期(5〜14歳)と成人期(35〜64歳)に2峰性のピークを持ちます。
【 皮膚症状 】
上眼瞼の紫紅色の腫れぼったい赤み(ヘリオトロープ疹)
手指関節背面の盛り上がった硬い赤み(ゴットロン丘疹)
手指の爪の周りの紅斑(爪囲紅斑)
手指側縁のガサガサした皮疹(メカニックスハンド:機械工の手)
小児皮膚筋炎では皮膚の石灰化を伴うことが多い
他にもいろいろな皮膚症状があります
また、他の臓器で合併しやすい病気のうち、特に注意しなくてはならないのは間質性肺炎と悪性腫瘍です。
中でも筋症状に乏しい皮膚筋炎の場合、肺病変が急速に悪化する場合があるので、早く診断し早く治療しなくてはなりません。
どんな合併症状が出るのかは、特異的自己抗体(自分の組織に対して産生される抗体のうち皮膚筋炎にしか出現しないもの)の種類によって様々です。
しかし、現在、皮膚筋炎を疑う患者さんが診察にいらしても、保険適応になっている自己抗体検査は、一部しか測定できず、ほとんどの自己抗体は大学の研究室レベルでしか検査ができません。
そしてやっとわたしの研究ですが
4年間の中で、
抗MDA5抗体が急速進行性間質性肺炎発症に及ぼす病態解明について
抗TIF1ガンマ抗体が悪性腫瘍発症に及ぼす病態解明について
小児皮膚筋炎に特異的な抗NXP2抗体の簡易検査法の確立
などのテーマのもと研究を行なっていました。
仮説を立てては実験し、結果が出ず、また仮説の立て直しの日々でしたが、物事を深く探求する姿勢をこの4年間で培うことができたと思います。
学位論文は、「抗NXP2抗体の簡易検査法の確立」という内容でした。
こうした検査法の確立で一部の皮膚筋炎の診断がしやすくなり、予後予測ができるようになります。
病型がわかると、どのような経過に気をつけて診察していく必要があるのかがわかります。
膠原病は内臓病変を伴うことがあるので大病院で治療されることが多いですが、診断がまだついていない段階では、まず最初に近くの皮膚科クリニックに受診されることが多いと思います。
「目が腫れました」「手がガサガサです」という患者さんの中に、膠原病に特徴的な皮疹を見出し、検査・診断につなげていくということが皮膚科医の重要な役割です。
膠原病に限らず、皮膚科専門医としてこうした疾患を見逃さないように常に皮疹をしっかり診ていますので、安心して診察にいらしてくださいね