アトピー性皮膚炎について
保湿剤で皮膚のバリアを補うことが
必要です
アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインでは、「皮膚の生理学的機能異常を伴い、複数の非特異的刺激あるいは特異的アレルゲンの関与により炎症を生じ慢性の経過をとる湿疹」と定義されています。(①アレルギー体質②バリア機能が弱い体質(ドライスキン)③環境要因などの問題があります。)
乳幼児期の湿疹コントロールが良くないと、経皮感作により食物アレルギーの発症リスクを高めるという二重抗原暴露仮説なども提唱されているため、さらなるアレルギー発症予防のためのスキンケアはとても重要です。
検査
- 現在の治療でアトピー性皮膚炎がうまく治療できているか確認することができます。
- 皮膚の状態が検査値で表されるため、治療の目標を持つことができます。
- 見た目には良くなっていてもTARCが高値を示す時には炎症が残っていることがわかります。
TARC検査
アトピー性皮膚炎の重症度の評価に有用な検査です。
アトピー性皮膚炎では、様々な刺激によって皮膚病変の細胞(表皮角化細胞)などからTARCの産生が誘導または増強されます。このTARCがアレルギーを惹起するリンパ球(CCR4を発現したTh2細胞)を患部へ遊走させ症状を増悪させます。
炎症の強い時期にはこのTARCが増加するため、重症度を反映して検査値が鋭敏に上昇します。炎症が落ち着いた時期には逆にTARCが低下します。
治療方法
内服・外用治療
アトピー性皮膚炎の治療において、①適切なランクのステロイドやプロトピック軟膏、コレクチム軟膏を用いて、皮膚の中で起こっている炎症を取ること、②皮膚を清潔にして保湿するスキンケアを行なってバリア機能を強化すること、をセットで行うことが重要です。
また、アトピー性皮膚炎の治療目標は、「症状が認められない、あるいは症状があっても軽微であり、かつ日常生活に支障がない状態への導入(寛解導入)およびその長期維持(寛解の長期維持)」です。
主に内服・外用治療によって寛解導入を目指しますが、重要なのは、短い時間に一気に寛解状態へ持っていくことです。
- 抗アレルギー薬内服
- ステロイド外用
- プロトピック軟膏外用
- コレクチム軟膏
コレクチム軟膏は、2020年6月に登場した外用薬です。16歳以上の方に適応です。
免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たすヤヌスキナーゼ(JAK)の働きを阻害します。使用時の刺激感も起こりにくく、副作用が少ないとされています。
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POINT 01
ステロイドは適切なランクのものを使うことが必要です。ステロイドは強さにより5種類にランク分けされます。塗る場所、皮疹の程度により、適切なランクのステロイドを使用したり、軽度の皮疹にはプロトピック軟膏やコレクチム軟膏を選択します。
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POINT 02
適切な量を塗ることが必要です。
FTU(フィンガー・チップ・ユニット)という考え方による外用必要量について指導します。 -
POINT 03
適切な塗り方が重要です。湿疹があるうちに外用をやめてしまい再燃を繰り返すことが多いので、皮膚を触って湿疹のある状態を一緒に確認してもらいます。外用を減らすタイミングを細かく指導し、湿疹も掻痒もない状態になってからスキンケアのみで皮膚を良い状態に保てるようにするには、プロアクティブ療法(寛解維持療法)が必要です。
プロアクティブ療法
日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」にて推奨されている治療法です。
治療によって一見皮膚炎が無いように見える皮膚になっても、潜在的な炎症が皮膚に残っていることがあります。ここで治療をやめてしまうと皮膚炎が再燃しやすいのです。
プロアクティブ療法とは、再燃をよく繰り返す皮疹に対して、急性期の治療によって寛解導入(皮膚がつるつるすべすべの状態)した後に、保湿外用剤によるスキンケアに加え、ステロイドやプロトピック外用薬を定期的にぬり、寛解状態を維持する治療法です。
皮膚の状態をみながら、1日2回外用→1日1回外用→1日おき外用→週に1~2回外用→保湿のみでも痒みの再燃ない状態へと、痒み赤みの再燃がないことを確認しながら減量していきます。
紫外線療法
紫外線の「免疫の働きを調節する作用」を活用し治療します。
アトピー性皮膚炎の病態に、Th2リンパ球から分泌されるTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL13、IL31)が関与します。このTh2サイトカインは、細胞間の情報伝達を担うタンパク質で、皮膚のバリア機能低下や炎症の促進を引き起こします。
紫外線照射すると、Tリンパ球の自然死(アポトーシス)や、免疫にブレーキをかける制御性T細胞が誘導され、皮疹の改善が期待できます。また、乾燥肌や掻爬によりかゆみの神経が角層直下まで伸長してきているため強いかゆみを感じていますが、紫外線療法によりそのかゆみが治まっていきます。
紫外線療法により長期間の寛解が維持できるため、ステロイドの使用量を減らしていくことができます。
保険適応の治療です。週に1回の通院が必要です。
シクロスポリン内服
(免疫抑制剤)
臓器移植の拒絶反応を抑制するためのお薬として開発された免疫抑制剤です。
免疫に関わるTリンパ球の働きを抑え、異常な免疫反応を抑える働きがあります。通常のステロイドなどの外用療法などでは効果が十分でない重症例に使用されます。
血圧や腎機能障害のチェック、シクロスポリンの血中濃度測定などが必要なため、定期的に受診ができる患者さまにのみ導入します。
デュピクセント注射(保険適応)
2018年1月にアトピー性皮膚炎の治療薬として承認を取得した治療薬です。
アトピー性皮膚炎を引き起こす主役はTh2というリンパ球です。デュピクセントは、アトピー性皮膚炎の皮疹やかゆみの原因になっているものを選択的にブロックする薬剤です。
詳しい機序については、製剤のサイトをご覧ください。
リンパ球から分泌されるIL-4、IL-13、IL-5、IL-31などのサイトカインが皮膚のバリア機能の低下や炎症の促進を引き起こし、その結果アトピー性皮膚炎が発症すると考えられています。
デュピクセントはサイトカインのうちIL-4とIL-13をブロックすることで、アトピー性皮膚炎の発症や増悪を抑えることができます。また、Th2というリンパ球に分化する過程を抑制することもできます。
適応には条件があります
- ①既存の治療で効果が不十分な中等症~重症の成人アトピー性皮膚炎患者
- ②15歳未満には投与できません
- ③多額の費用が負担できる方、あるいは何らかの補助が受けられる方
- ④導入後しばらくは月に2回の通院が可能な方
※途中から在宅自己注射への切り替えも可能 - ⑤外用治療も併用できる方
投与について
デュピクセント は、2週間に1回、
二の腕、腹部、ふとももに
順番に注射します
自己注射について
2019年6月より自己注射が認められるようになりました。これにより3ヶ月分の注射剤が処方できます。
自己注射をするためには、院内で最低2回以上の指導を受けていただく必要があります。もちろん、自己注射に不安を感じる方は、2週間ごとに通院での注射を継続していくことも可能です。
自己注射へ切り替えていくことにより、3ヶ月ごとの受診で治療を継続することができ、年収次第では、高額療養費の助成を受けることができるというメリットがあります。これらの費用負担についてはクリニックで詳しくご説明いたします。
費用目安(保険適応)
保険3割負担の方で、薬剤費は月に約20,000円です。2週間ごとに注射をしていくので、1ヶ月あたり3割負担の方で約40,000円かかります。ただし、年齢・年収・加入している健康保険組合により異なりますが、高額療養費制度の対象となり、自己負担額の上限以上は補助を受けることができる場合があります。
また、一部の企業にお勤めの方では、企業の健康保険組合による付加給付制度により、一定額以上は補助を受けることができる場合もあります。
デュピクセント®の薬剤費 1本あたり ペン:66,562円 |
ペンの場合 | |||
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初回(2本) | 2回目以降(1本) | |||
133,124円 | 66,562円 | |||
自己負担額 (窓口で支払う金額) |
3割 | 39,937円 | 19,969円 | |
2割 | 26,625円 | 13,312円 | ||
1割 | 13,312円 | 6,656円 |